Monday, January 31, 2011

「若者の内向き志向」再考

久しぶりのブログ更新。
最近よく「日本の若者は内向き」と聞くのだけど、どうも実感としてしっくり来ないんだよなーと思っていたところ、リクルートがタイムリーな記事を書いていた。

「若者は内向き」という誤解

要するに、日本人留学生の減少という主張は、
①留学先がアメリカ一辺倒だった時代からアジア等を含めた多用な地域に分散しており、総数では2007年まで増加している。
②留学適齢人口(18~29歳)は97年をピークに27%減少しており、この人口あたりの留学生の数ならむしろ増加している。
という2つの事実を見逃しており、全くの誤解だということ。
①に関しては、何を隠そう私もアジアのシンガポール国立大学に留学した経験があり、確かに未だに有力な留学先であることには変りないが、今更何がなんでもアメリカ留学などというのは確かにおかしいと感じる。


しかし、これらの誤解がとけたとしても日本の国際派エリート層育成という面でみると依然として悲観的にならざるを得ない。
適齢人口あたりの総留学生数が減っていないとしても総数が減っていることは事実でありエリートの層の厚さという面で他の新興アジア諸国に劣ることは事実である。

また、以下の表を見てほしい(クリックで拡大)。

出典:IIE Open Door

これは、アメリカのみへの留学生へのデータであるが興味深い示唆が得られる。留学の教育レベル(学部、大学院、ノンディグリー(含む語学研修)、職業訓練等)で見たときに、エリート層・一流の研究者としては大学院における留学が重要であるが、日本は他の新興アジア諸国に比べ大学院の比率が21.7%と低い。一方、中国、台湾、インドは軒並み大学院留学の割合が50%を超え、国際派エリート層の厚さは圧倒的である。
この日本の教育レベル別の割合は、近年アメリカへの留学生が急増しているサウジアラビアと酷似しているが、これは比較的裕福な国は経験としての留学、半分遊び感覚のそれほど真剣でない留学の割合が多いということだろう。つまり、実質的に一流の研究者として活躍している日本人は減っているのではないか。

さらに、総数でアメリカ留学者が2008/2009から2009/2010にかけて15%も減少しているのだが、適齢人口当たりでみたとしても減少傾向とえいるだろう。これは、単に若者が内向き志向だからなのではなく、おそらく近年の厳しい家計の経済状況や、リーマンショック後の企業の人材育成予算の減少などから「経済的な原因で」減っているのではないだろうか。

追記
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大学院の割合について誤解があったので訂正する。

出典:同上

日本のアメリカ留学者の経年変化を以下の表から見てみると、大学院の総数は減っているが割合はむしろ増えていた。
それよりも顕著なのは学部生の割合が減り、語学研修などのノンディグリー及び職業訓練などの「短期」留学の割合が増えていることだった。もともと、学部留学生の割合が多いのは、4年間の学費を賄える資金力があるからであって、必ずしも悪い特性ではないのかもしれない。

以上をまとめると、日本の海外留学は、適齢人口あたりでみてもアメリカでは減っており(適齢人口は10年で四分の一の減少だが留学総数は半分程度の減少)、より物価の安い地域や短期留学が増えているといった実態が垣間見える。その結果、総数の減少に加えて、腰を据えた比較的長期の留学の割合が減り、日本の国際派エリート層の質と人材の厚さはこのままでは先細りになるだろうと考えられる。
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以上の統計的な誤解の解消を踏まえた上で、日本の若者の海外留学減少の処方箋として何が考えられるだろうか。私からは以下の4点が思い当たる。

・就職活動の通年採用の増加
留学するくらいの気概と能力のある学生ならば、通年採用でとってもらえるとも考えられるが、それでも一括採用の流れに乗れないことによる不利は否めないところがある。それゆえ、通年採用を増加させ有能な人材を獲得するチャンスを増やすべきだろう。有望な留学上がりの新卒はバイトなどでキープして適性を見て、一括と一緒に正式採用するのもよいのではないか。

・少子化対策
人材の厚さという面で考えると、少子化を止めることは根本的な解決索の一つだろう。

・奨学金の充実
中国などは、一人っ子政策によって一人に教育投資を集中させて留学資金を賄っている面もあると思うので、エリート層の厚さを考えるなら優秀な学生に留学などの経験を積ませるようにもっと国は奨学金を充実させる必要もあるだろう。

・優秀な留学生の積極的受け入れ
優秀なアジア等からの留学性は、勉学姿勢や授業での質問の積極性など日本人学生に対してポジティブな効果をもたらすことは私の実感としてある。留学生との交流は、(実際自分が留学することにくらべれば遠く及ばないが)日本にいながら異文化体験をし国際感覚を磨くことができる。


以上、海外留学に着目した「若者の内向き志向」に関する再考でした。留学以外の面での考察は次回やろうと思います。