Sunday, September 11, 2011

[Review] 日本中枢の崩壊


日本中枢の崩壊、古賀 茂明、講談社 (2011/5/20)


<古賀氏の覚悟>

現役の経産官僚、古賀茂明氏の渾身の著作。ようやく読了した。よくまあここまで書いて、そして出版したものだ。すごい勇気だ。だてに、ガンの手術までしていないな。もう失うものは何もないという感じだ。あとがきに、出版の動機が書いてある。

「官僚は政権の指示に従って、余計な口を挟まず、実務をこなしていればいいのだという意見が一般的だ。~中略~。しかし、私は唯々諾々と従うだけが官僚の仕事ではないと思っているのである。むろん最終的には政治の判断に委ねなければならないが、その過程で閣僚とわれわれ官僚が政策論争を繰り広げるのは、決して悪いことではないはずだ。」


2ちゃんでの匿名のコメントですらときに罰せられる時代に、まだ官僚の方々は匿名性と無謬性の文化を保ち、必要な議論ですら密室で行う。そんな中で、古賀さんは現役で実名証言した。本当に国のことを一番に考えている。徹底している。自分は、古賀氏の意見に全ての賛成というわけではないが、その姿勢は本当に尊敬に値すると思う。古賀氏は国家官僚の鏡だ。

全日本人必読の書というのは、全くその通りだと思う。特に若い世代は読んだほうがいい。やみくもに、世代間対立を助長するつもりは毛頭ないが、みしらぬところで既得権益に縛られていて、このままでは日本の将来はじり貧である。古賀氏は最悪の場合「政府閉鎖」すら起こりかねないと警告している。そして、若い人は今のままなら年金も税金も払うなとまで言ってる(苦笑)彼の言い分を聞いておいて損はない。


<現在の官僚システムが諸悪の根源>

政治家・官僚が日本の問題だということがもう20年以上も言われている。しかし、それを私が深刻な問題としてとらえ始めたのはごく最近で、大学3年くらいになってからである。それまでは、日本がいろいろと問題を抱えていることは承知だったが、何が本質的な問題なのかよくわかっていなかった。それよりも、高校までは化学が好きだったので、目の前にある問題などを技術で解決することに興味があった。自分は環境問題に興味があったので、学部で化学工学を勉強する傍ら環境政策にも関心があった。あるとき、友人からなぜ日本では炭素税のようなものが導入されないのかと聞かれた。またあるときには、再生可能エネルギーが伸びないのはなぜかとかの質問を受けた。それで、それに答えるために自分で考えを整理したのだけど、炭素税を導入しない理由がわからなかったのだ。そして、再生可能エネルギーが伸びない理由も、わからなかったのだ。
それで、個別の技術を勉強したって、全く埒があかないじゃあないかとなって、専門を政策の方にスイッチしたわけである。特に、環境NGOでインターンをしたときに、(奇しくも震災で明るみになったわけだが)原子力・エネルギーに関わる政治家・官僚・業界の利権が全てを阻止しているのだということをまざまざと見せつかられたわけである。

そして、一番厄介なのが役人の方々。自分自身も、就職先として国家公務員を考えて、就職イベントに何度か参加したくらいので、古賀さんの書かれていることがとてもリアルに読めた。もし、役人になっていたら古賀さんのような上司のところで働きたいと思ったが、古賀さんは自分のような改革派はだんだん少なくなり、今では絶滅危惧種だと書いてある。そして、自分が肌で感じているものも同じだ。元外相で経済企画庁にいた大来佐武郎氏の評伝には、高度経済成長期の日本でいかに若手官僚が活躍したのかが克明に記されている。それなのに今の状況は、若手官僚の改革意欲がことごとくつぶさるシステムになっている。試験も受けずにこんなことを言うのは、並々ならぬ努力をして国会公務員になられた方々には失礼かもしれないが、今のタイミングで官僚にならなくてよかったと思った。それにしても、孤立無援に近くても、信念を貫き、私利私欲に走らず国のことを考え、政治家にもきちんとモノを言う。官僚になる前の自分ですら、言葉が官僚的になっていた時期を思い出すと古賀氏の率直な物言いには頭が下がる。


<日本政治の短期シミュレーション>

今後の日本はどうなってしまうのだろう。そういえば、また首相が変わったんだっけ。。。
野田政権では、古賀氏の経産省事務次官起用は難しいだろう。鉢呂経産大臣が、大胆な改革を目指していながら、1週間そこそこで実質的に与党守旧派、官僚および記者クラブに失脚させられたのがいい例だ。7月の松本龍復興相の失言引責辞任のときとは状況が全然違う。これでは、もう民主党には何にも期待できない。初めての大きな政権交代だったのだから、いろいろ経験しないと分からないこともあった。だから、失敗は多くあったけど、寄付税制改正や再生可能エネルギー促進法案が通っただけでも、民主党の存在価値はまああったといえよう。ただし、次の総選挙でも変われないとしたら日本は本当に終わりだと思う。民主党が安部政権以降の自民党政権末期の状況と酷似していることを考えれば、おそらく野田政権はしばらくの間空白を埋めるだろうが、次の総選挙までにはもう一度首相交代するか、民主党が割れて政界再編が起こるのではないか。

自民党がなんとかして河野太郎さんを中心に守旧派を一掃して再生すれば、次の選挙で与党復帰もある。おそらくみんなの党は、自民党の再生いかんに関わらず票を伸ばすだろう。河野首相の自み連立政権でなら、公務員制度改革や財政問題など大きな課題に取り組めるはずだ。そのあたりが、もう唯一の希望。福山さん、馬淵さん、長妻さんら民主党の実力派は、しばらく表舞台から遠ざかるだろうが、民主党が負ければ、執行部に再び入って建設的な議論を野党としてやってくれるはず。それがもう唯一期待できるシナリオ。


<日本の将来は国民一人一人が作り上げる>

しかし、最終的にはやはり国民一人一人が変わらないといけないのだと思う。記者クラブに牛耳られた今のマスゴミに踊らされているようでは、リーダーが変わったところでまた官僚と一部業界の既存のシステムの延長路線に吸い戻されるだけ。また、小沢一郎も言った。「国民以上の政治家は生まれない」と。自民への嫌悪感もあったろうが、小沢のばらまき政策で勝ててしまうのが日本の国民の政治意識の現状。古賀氏も繰り返し本書で述べていたが、まずお上に頼るというのはやめよう。国民が変わらなくちゃ、政治家は変わらない。政治家が変わらなければ官僚も変わらない。官僚が変わらないければ、政策も変わらない。政策が変わらなければ、日本の復活はない。

若い世代も変わらなくちゃならない。いや、若い世代から変わらなくちゃならない。自分自身への言葉でもあるが、親のすねをかじっていたのでは駄目だ。親が出してくれるからってニート生活を続けるなんて論外。だから、高齢層が我が子かわいさに、既得権益保持に気持ちが傾くのだ。あんな、雨後のタケノコのように乱立した私立大学でキャンパスライフを若者が無駄に消費できるのは、もうあと数年もないだろう。あんな一様な面白くもない、英語も話せない新卒の人材を生み出す就職活動の波に乗っかっていたら、どんどんアジア人材に雇用を奪われる。内向き世代などというレッテルは蹴散らしてやるのだ。


まあ、いろいろと書いたが、本書を読んでマスゴミに騙されないようにしよう。自分で政治家の仕事を評価できるようになろう。本当は、とても優秀な役人の方々が本来の仕事ができるように応援してあげよう。

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